14年間、私は今でも富士吉田へ通い続けています。
東京から約2時間。近い距離ではありません。それでも時間をつくって足を運びます。
理由は一つです。私たちが目指す羽毛布団はこの工場でしか作れない。そう思っているからです。
表参道布団店の羽毛布団は、富士吉田の小さな町工場で作っています。織物の産地として知られる町の職人が10名ほどの工場です。私がこの業界に入って25年、いちばん初めから付き合いのある工場です。
14年前、店を立ち上げた当初はいろいろな工場にお願いしていました。大量生産の出来る大きな工場。蒲郡にある外注専門で小回りの効く工場。少しでも納期を早めたい、在庫を持って効率よく作りたい。当時の私はそう考えていました。
ただ、続けていくうちに品質にムラが出ると感じるようになりました。私たちが大切にしている細かなこだわりをどの工場にも同じように理解してもらうのは簡単ではなかったのです。
決定的だったのは大量生産をお願いしていた工場から完成した商品が届いた日でした。
私はまず角を見ます。
表参道布団店の羽毛布団には、縁にぐるりと黒か白いパイピングが入っています。とくに角はミシンをゆっくり丁寧に運ばないとすぐにつれてしわが寄る。縫う人の手がそのまま出るところです。
届いた一枚は、その角のパイピングがつれていました。ここに手をかけない工場なのだとひと目で分かりました。
中の羽毛には自信があります。
でもこの角に表参道布団店のタグは付けられませんでした。
上が大量生産の工場、下が富士吉田の工場。同じ角でも、仕上がりがこれだけ違います。
繁忙期でした。すでに30件以上のご注文をいただいていました。
この工場の商品を止めればすべてを富士吉田の小さい工場で、作り直すことになります。お客様には60日以上お待ちいただくことになる。キャンセルもクレームも覚悟しなければなりませんでした。
その日の夜は本当に悩みました。
それでもあの商品を届けることはできませんでした。
売上よりも品質を選ぶ。設立から3年ほど経った頃のことです。これからはいちばん初めから付き合いのある富士吉田の工場の一社だけで作ることにしました。
コストはかかります。一日に作れる枚数も限られます。それでも決めました。
この町工場は規模が小さいこともあって、私たちの細かなこだわりをすべて汲み取ってくれます。
使っているのは、JUKIという会社の古いミシンです。私はミシンに詳しいわけではありません。それでもものづくりをお願いするときこの古いミシンが置いてある工場だとなぜか安心します。
一枚一枚、職人がそのミシンを手で操りながら丁寧に縫い上げていきます。とりわけ、角のパイピング。ここにその人の手がいちばん出ます。
角がきれいに縫えているということは、長く使っても羽毛が吹き出してこないということです。見た目の美しさの話ではありません。10年、20年と使っていただくための縫い目です。
おかげさまでこれまで羽毛が吹き出したというお客様は一人もいません。
あの決断から11年。今も同じ職人たちと同じ羽毛布団を作り続けています。技術は少しずつ磨かれて、返品やクレームはほとんどなくなりました。
私が今も工場へ足を運ぶのは、品質を確かめるためだけではありません。
あの古いミシンの前で、職人が一枚ずつ縫っている。その姿を見ると、11年前の夜、届けるのをやめて良かったと、あらためて思えるのです。
